1950年代前半、曲が日本に紹介された直後から複数の訳語が乱立し、なかなか統一されませんでした。1980年頃から《中国の不思議な役人》がすでにかなり一般的になってきましたが、この訳語に対する評価は今でもさまざまな立場があるようです。
書籍、LPやCDの解説、演奏会プログラム等の出版物から収集し、分類しました。年代順。
大官系(推定 1951年=昭和26年〜)
不思議な大官
・ 服部龍太郎 1951 『二十四人の現代音楽家』西荻書店, pp.126-127
マンダリン系(推定 1952年=昭和27年〜)
素晴らしいマンダリーン
門馬直衛 1952 『西洋音楽史要』春秋社, p.192(3月発行)
不思議なマンダリン
柴田南雄・入野義郎 1954 『音楽史年表』創元社, pp.372 (黙劇『不思議なマンダリン』と記載)
菅野浩和 1963 『日本フィルハーモニー交響楽団 第62回定期演奏会プログラム』(日本初演、1963年4月12日)
谷本一之 1978 レンドヴァイ(谷本訳)『バルトークの作曲技法』, 全音楽譜出版社
諸井 誠 1985 『現代音楽は怖くない』 講談社, pp.117~
羽仁協子・大熊進子 1992 セーケイ(羽仁・大熊訳)『バルトーク物語(音楽選書62)』, 音楽之友社
ふしぎなマンダリン
遠山一行 1969 ショアン(遠山訳)『<永遠の作曲家> ストラヴィンスキー』, 白水社, p.281
羽仁協子 1970 『ある芸術家の人間像―バルトークの手紙と記録―』, 冨山房, pp.97~
不思議なマンダリン(中国の役人)(初出時のみ。以後のページはカッコの記載なし)
諸井 誠 1986 『音楽の現代史 -世紀末から戦後へ-』, 岩波新書, pp.62-72
「マンダリン」系は原語に忠実にあろうとする方々から強く支持される、古くて新しい訳語です。
宦官(かんがん)系(推定 1952年=昭和27年〜)
不思議な宦官
北沢方邦 1952 「ベーラ・バルトーク」『音楽芸術』1952年5月号(北沢1968『現代作曲家論 七つの肖像』合同出版, p.160 所収)
北沢方邦 1955 堀内敬三・野村良雄(編)『音楽辞典 人名篇』音楽之友社, pp.438-443
入野義郎 1955 ヴェルナー(入野訳)『現代の音楽』音楽之友社, p.177
志田勝次郎・宇山直亮・飯田正紀 1961 スティーヴンス(志田・宇山・飯田訳)『バルトークの音楽と生涯』, 紀伊国屋書店
岩崎悦子 2000 『中・東欧のことばをはじめましょう ハンガリー語CD入り』 朝日出版社, p.25
ふしぎな宦官
渡辺 護 1962 ヘルツフェルド(渡辺訳)『わたしたちの音楽史』 白水社, p.267
北沢方邦 1971 「バルトークの生涯」『世界大音楽全集21 ラフマニノフ・バルトーク』(LP)の解説、河出書房新社
中国の不思議な宦官
佐川吉男 1963年以降(演奏データから)「舞踊音楽 "中国の不思議な宦官"」, フェレンチク指揮、ブダペストフィルハーモニー管弦楽団他の演奏のLPの解説、日本グラモフォン
谷本一之 1970 「近代ハンガリー音楽とバルトーク・コダーイ」『ステレオ世界音楽全集18 バルトーク、コダーイ他』の解説、講談社
「宦官」系は誤解を含んでいます。原作の設定で、主人公は漢民族の特徴である辮髪(べんぱつ)を垂らしています。
「中国の~」を前に出す処理は、少なくても1963年には存在したことがわかります。
官吏(かんり)系(推定 1957年=昭和32年〜)
マンダリン
奇妙なシナ官吏
柴田南雄 1957 モルー(柴田訳)『バルトーク』, ダヴィッド社
奇妙なシナ官吏
北沢方邦・八村美世子 1969 シトロン(北沢・八村訳)『<永遠の作曲家> バルトーク』, 白水社
不思議な支那官吏
・田辺尚雄 1957 『西洋音楽史』東京電機大学出版局, p.241
ふしぎな支那官吏
・古田徳郎・竹内昭一 1959 『バレーと音楽』音楽之友社, p.135-137
不思議な官吏
谷本一之 1974 サボルチ(谷本訳)『ハンガリー音楽小史』音楽之友社, p.122
不思議な中国官吏
小倉滋夫 1974 レイナ(小倉訳)『バレエの歴史』音楽之友社, p.276
マンダリン
奇怪なシナ官吏
柴田南雄 1978 『名演奏のディスコロジー』, 音楽之友社, pp.31-40
不思議なシナ官吏
・山崎 孝 1981 『バルトーク ミクロコスモスの演奏と指導法』ムジカノーヴァ/音楽之友社, p.11
不思議な中国の官吏
五島雄一郎 1985 『音楽夜話』講談社(五島1995『死因を辿る ―大作曲家たちの精神病理のカルテ』, 講談社+α文庫, p. 299)
役人系(推定 1964年=昭和39年〜)
中国の不思議な役人
角倉一朗 1964 「舞踊組曲 "中国の不思議な役人"」, ショルティ指揮、ロンドン交響楽団の演奏のLPの解説、キングレコード
坪田勧一(編)1968 『現代教養百科事典 11音楽』p.352
野呂信次郎 1969 『名曲物語』, 社会思想社(現代教養文庫), p.323
水野修孝 1971 『標準音楽辞典』(第9刷), 音楽之友社, pp.927-930
小川昂(編)1975 『洋楽索引』, 民主音楽協会, p.44
中国のふしぎな役人
徳永康元 1974 「バルトークをめぐって」『バルトーク大全集(第1巻)』キングレコードの解説(徳永1982『ブダペストの古本屋』恒文社, p.121所収)
出川沙美雄 1981 ボーニシュ(出川訳)『写真と資料でみる―バルトークの生涯』 , 国際文化出版社, p.10
小澤俊朗編 1994 『バンドメイツのための吹奏楽小事典』, 東亜音楽社, p.107
ふしぎな中国の役人
徳永康元 1975 「ハンガリー随想」『フィルムセンターNo.26』(徳永1982『ブダペストの古本屋』恒文社, p.34所収)
支那の不思議な役人
塚本邦雄 1976 「支那とスフィンクス」『劇場』No.16, パルコ出版, p.18(塚本1978『断言微笑』読売新聞社, p.58~ 所収)
中国の不思議な役人(マンダリン)(初出時のみ。以後のページはカッコの記載なし)
石田一志 1983 マッケイブ(石田訳/千蔵八郎監修)『バルトーク/管弦楽曲(BBCミュージックガイドシリーズ24)』, 日音楽譜出版社
不思議な中国の役人
小倉重夫 1997 小倉編『バレエ音楽百科』 音楽之友社, p.308-309
戸口幸策・津上英輔・寺西基之 2001 『グラウド/パリスカ新西洋音楽史(下)』音楽之友社 p.952(下180)
奇妙な支那の役人…ブルーノ・マデルナのLPにあるそうですが、現物を未確認。